【1番ホール】二人のオッサン
今から45年前、関西のとある高校で出会った二人のオッサン。45歳を迎えたころ、たまたま別々の理由で、遅まきながら二人ともゴルフを始めた。そしてそれから一緒に、ドップリとゴルフ沼にハマっていった。それが私と悪友のH君だ。
月に一度は一緒にコースを回り、二人とも一年目で早々に100は切った。そして、3年でシングルプレーヤーになることを目指して、二人でゴルフにのめり込んだ。しかし15年経った今も、お互いシングルにはなれず、ベストスコアは79と80にとどまっている。
同じようにゴルフを始め、同じような腕前だが、ゴルフに対するスタンスは全く異なる。言わば「練習オタク」と「道具オタク」だ。
そんな二人の、ゴルフが楽しくて仕方なかったころの珍道中の記録です。

【2番ホール】コースマネジメントより難しい「嫁さんマネジメント」
とある梅雨時の夜、「来週、嫁さんが急に実家に帰ることになったぞ! 行こうぜ!」とH君から誘いの電話。
あまり気乗りのしない私は、「でも、梅雨やし、きっと雨やろ?」
「雨やったらゴルフせんのかい! いつからそんな腰抜けになったんや!」と、嫁さんがいないと、あくまで強気のH君。
「雨やとスコア出んやろ」と、どこまでも後ろ向きな私。
「まぁ、そう言わんと、とにかく行こうや。せっかく嫁さんがおらんで自由なんやし・・・」と、最後は懐柔にかかるH君。
そんなこんなで、小雨の降る休日の早朝、コースに向かうクルマの中でH君の携帯が鳴った。すると、突然、凍りつくH君。
「アカン、嫁さんからの電話や・・・。出るべきか、気付かんかったフリをすべきか・・・」
私、「何で出られへんねん? 何かマズイことでもあるんか?」
H君、「今日のゴルフ、嫁さんに申告してないねん・・・」
どうやら勘の鋭いH君の奥方が、早朝にもかかわらず、実家からH君の様子を探ってきたようだ。やむなく電話に出たH君は、それでも往生際悪く、最初は、
「いや、打ちっ放しにでも行こうかと・・・」
と嘘の上塗りを試みるも、結局、コースに着くまでには、
「スイマセン、今、ゴルフ場に向かってマス・・・」
とすっかり全てを白状させられている始末。
恐るべし嫁さんのカン! そして、どうせバレるに決まっているウソを無邪気につくH君に代表される世のダンナ諸氏に乾杯!

【3番ホール】いつもの光景・・・
コースからの帰りのクルマの中でのいつもの光景。
「今日のスコアは悪かったけど、次回からは、ドライバーでフェアウェイをキープして、アイアンのアプローチの精度を高めて、2パットで入れられるようにさえすればエエんや」
と、毎度、同じ当たり前の結論に達し、一人で納得しているH君。
「それが全部できたら、シングルどころかプロになれるんちゃうか?」
という私のチャカしをものともせず、毎回、念仏のように同じことを唱えている。
では、そのために具体的に何をすべきか、ということについては、ついぞ話が及ばず、毎度、「ドライバーでフェアウェイをキープして・・・」
この光景を何度か見ていた私は、ふと高校時代のあるシーンを思い出した。
学校からの帰り道、私とH君は、模試の結果について反省会?をしながら歩いていた。英語の結果が思わしくなかったH君が何やらブツブツとつぶやいている。
「英単語はこの参考書を全部覚えて、英文法はあの参考書を完璧にマスターして、英作文ではあの参考書を制覇すれば、英語は完璧やな」
「参考書」が「クラブ」に代わっただけで、人間の本性は何十年経っても何も変わらない・・・

【4番ホール】メンタルの弱さ、この御しがたきもの
会社のコンペでニアピン賞を2回取ったとかで、珍しく強気のH君が、
「今日は1点100円でニギるか?」と切り出してきた。
「それにショートホールは、ニアピンならプラス3点でどうや?」と、かなり鼻息が荒い。
H君の弱点を知り尽くしている私は、この機に乗じてすかさず、
「じゃあ、池ポチャしたら相手に10点付けようぜ」と逆提案。
普段でも池にはめっぽう弱いH君、10点のプレッシャーのせいか、何と、ショートホール4回のうち3回池ポチャを達成! 想像以上の成果にニンマリする私に、
「池に入ったんじゃなくて、赤杭の中で止まったからセーフや!」と食い下がるH君。
「ほんなら、その池の淵の崖から打ったらセーフと認めたるワイ!」と恫喝する私。
H君ならずとも、メンタルの鍛錬はまことにムツカシイ・・・

【5番ホール】「練習オタク」と「道具オタク」の結末は?
しばらく仕事が忙しくて練習ができなかったH君が、ようやく仕事が落ち着いて、まとまった打ち込みをやったらしい。
そしていつものごとく、「やっとドライバーのスイングの基本が分かったわ~」と連絡をよこしてきた。そして練習の成果をコースで試してみたい、と強引に連れ出された。
ラウンドが始まり、早速、H君のティーショットを拝見する。確かに球筋は以前よりスライスが少なくなり、フェアウェイをキープする確率は高くなっている。
しかし、スイングフォーム自体に改善された点は発見できない。特に左ヒザが大きく折れ曲がり、右にシフトする野球スイングは従来通りである。
ゴルフを始めた時、私は最初からレッスンプロに習い、3年間で10万球打ってスイングフォームを作った。レッスン料と練習代への投資でキチンとしたスイングを身に付けようとしたのだ。いわば「スイングをカネで買った」ということか。
一方のH君は、プロには習わず我流でフォームを作った。その代わり、レッスン料を道具に投資し、半年ごとにクラブを買い替えまくり、道具の性能向上でスコアアップを図った。つまり「スコアを道具で買った」ということ。
いわば「練習オタク」と「道具オタク」で、ゴルフに対するアプローチの方法は全く違った。
ただ、どっちの道をいっても、結局、スコアは大差なかったが・・・

【6番ホール】ゴルフは理屈じゃない!
夏休みの平日に「太平洋クラブ成田コース」で、ちょっとリッチにキャディ付きのラウンドをした。キャディさんが可愛くてゴルフに集中できず?二人ともスコアは散々・・・ 。いくつになっても、結局、オトコはそんなもんだ。
その帰りのクルマの中でH君が切り出した。
「ウッドをちゃんと打てる自信がないんで、3番・5番・7番ウッドは抜いて、代わりに4番ウッドを新たに導入したわ」
私「???」
4番ウッドは「ウッド」ではないのか?
3番と5番が打てないのに、その間の4番はなんで打てると思うんだ??
ナゾだらけの行動だが、ここは理屈で理解しようとしてはダメだ。
要するに、新しいクラブを買いたかっただけなんだろ!?

【7番ホール】突然の選手交代のワケは?
「新しいクラブに替えればボールは真っ直ぐ遠くへ飛んで必ずスコアアップするはずだ」教?の信者であるH君。なので、ちょっと悪いスコアが出ると、次のラウンドではもうクラブが入れ替わっている。ダメならすぐ交代!の鬼監督さながらの思い切りの良さだ。
たとえスコアが悪くなくても、向上心と探求心が人一倍旺盛?なH君は、半年もすれば新たなクラブに替えないと気が済まない。新しいクラブに自分が馴染むまで、じっくり大事に育てていこう、という発想は、ない。
そんな「ヘビーローテーション」の中で、とても相性が良く、いい球が打てるクラブに出会うことがたまにある。そんな時、普通であれば、「やっと自分にピッタリのクラブに出会えた!これからはずっと長く使っていこう」と考える。
H君の場合、その運命の出会いは「グローレ」だった。グローレにしてからは、ほぼフェアウェイキープで、飛距離も十分に出ている。見ていても安心感があって、「オレもグローレに替えようかなぁ・・・」と私まで思い始めていた。
ところがH監督のいつもの病気?で、二度と出会えないかもしれない絶好調の「グローレ」を突然捨てて、新人の「レガシー」に替えたのだ。すると、グローレにする前よりさらに悪くなった。
絶好調の大谷翔平を、ワケもなく突然交代させるような「迷監督」ぶりだ。
いったい選手交代の理由は??
答えは簡単。どうしてもレガシーのドライバーが欲しかった!

【8番ホール】ゴルフの定義
「いや~、9番アイアンでグリーンオーバーしたわ」と、ミスショットにもかかわらず、なぜかドヤ顔で話しているH君。要するに「9番アイアンでこんなにも飛んだぞ!」と言いたいようだ。
ゴルフというスポーツは「ボールをできるだけ遠くへ飛ばす競技である」というのがH君の定義である。なので、ボールは遠くへ飛べば飛ぶだけエライのだ。だから、フライヤーだろうが風だろうが、9番アイアンで150ヤードも飛べば、どれだけカップから遠く離れていても、それで満足なのだ。
当然、正しいゴルフの定義は「ボールを狙った場所に打つ競技」である。だから、番手通りの飛距離でなければ、オーバーしてもショートしても「ミスショット」なのだが・・・
抜きがたい飛距離への信仰心!

【9番ホール】今も頭の中は高校生のころと変わらない?
思えば二人がともにすごした高校時代、好きな女の子にいい格好がしたい一心で、朝から晩まで3年間必死でテニスを頑張ったり、勉強したりしていた。
あれから40年以上経って還暦を迎え、「テニスラケット」が「ゴルフクラブ」に変わり、評価尺度が「偏差値」から「年収」に変わったけど、やっていることは本質的にほとんど同じだ。
少しでもいいスイング、いいスコアでラウンドして、いい格好をしたい。「できる男」のバロメーターとしての「年収」を少しでも増やして、気前のいいオジサンを演じたい。
どこまでいってもオトコの考えることは単純である。

【ハーフタイム】結局、シングルにはなれなかったが・・・
実はこの「二人のオッサン」シリーズの企画は、ゴルフを始めたての10年以上前に考えていたものだ。
当時のタイトル案は、「45歳でゴルフを始めた二人のオッサンが、3年後にシングルと100叩きに別れた18の理由」というものだった。
つまり私は3年でシングルになり、H君はずっと100を叩いている、という想定に基づいた企画だった。
ところが実際は、3年どころか10年以上たっても私はシングルにはなれず、スコアも当初は私がリードしていたが、今や追いつかれ、追い越されつつある。
スコアの停滞に伴って、ゴルフそのものに対する情熱も薄れ、いつしか私は釣りの方に熱中し始め、シングルの夢は諦めた。しかしH君は未だにゴルフに熱中し、2年ほど前に念願の70台のスコアを出し、まだシングルを狙える状況だ。
さて、「OUTコース」の前半9ホールは以上の通りだが、還暦から折り返す「INコース」の後半9ホールは、はたしてどんな珍道中になるのやら?

ランチのハーフタイムで一息!

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