「うつわソムリエ」会報で知ったサントリー美術館の『眼のごちそう 食器』展を見てきた。そこで初めて見た『織部洲浜形手鉢』(おりべすはまがたてばち、と読む)に強く惹かれ、早速、織部手鉢を入手した。さらにその経験を通じて、「実物を直接見る」という体験がもたらすパワーについて、あらためて考えた。以下で詳述する。

初めてサントリー美術館へ
東京ミッドタウンにはたまに行くが、その中にある「サントリー美術館」に行くのは初めてだ。会場に着いて展示を見る前に、まず、「エデュケーター」による展覧会の見どころを20分ほど聞いた。ここで基礎知識を事前にインプットしたおかげで、実際に展示物を見た時の理解度が格段に違ったので、聞いておいてよかったと思う。
一方、実物を見た時に、事前説明を聞いて頭で想像していたイメージをはるかに上回るインパクトを受けたケースがあった。それが『織部州浜形手鉢』だった。
『織部洲浜形手鉢』とは?
美濃焼の一種である「織部焼(おりべやき)」。緑と茶色の色使いが特徴的で、初心者の私でも見分けやすい。

緑色が特徴の「織部焼」
形は色々あるが、「洲浜形(すはまがた)」というのは、海や川の岸辺にできる「洲浜」を上から見た形のことだそうだ。家紋や茶道具、和菓子などで用いられているらしい(私は今回初めて知りました・・・)。

逆さミッキー?の「洲浜紋」
さらにそこに、陶器製の取っ手が付いているものが「手鉢(てばち)」と呼ばれる(恥ずかしながら、これも今回初めて知りました・・・)。本来は、茶事などでお菓子を入れるために使われるものそうだ(しつこいけど、これも初めて・・・)。

取っ手が付いた「手鉢」
事前にパンフレットの写真で見ていた時は、ほぼ興味もなかった。もともと織部はあまり好きではないし。エデュケーターさんが説明の中で強く推していたが、その時もまだ大して興味は湧かなかった。
しかし、いざ会場で実物を間近で見ると、その大きさもさることながら、形や重厚感、色使いなど、写真では決して伝わらない情報が一気に目に飛び込んできた。
そして、いっぺんに好きになった。さらに見るだけでなく、「織部焼の手鉢」がとても欲しくなった。

これが「織部洲浜形手鉢」だ!
うつわソムリエとして少しは成長した?
『織部洲浜形手鉢』のほかにも、重要文化財になっている『白泥染付金彩薄文蓋物』や『色絵五艘船独楽形鉢』など、「いいな~」と思うものをたくさん見た。
そして今回、これらの展示物を見て回る時、ある実験をしてみた。それによって、漫然と見て回るよりずっと真剣に見ることができたと思う。その実験とはこうだ。
いつもは、展示物の横に小さく書かれている「説明書き」を読んでから実物を見ている。どの時代の、どこで作られたもので、なにがスゴイのか等々、事前に全部分かったうえでモノを見ている。あらかじめ頭で理解したものを、視覚で確認する、という順番だ。
それを今回は変えてみた。事前に説明書きは一切読まず、まずモノをジックリ見て、そして自分なりに「これは○○焼だ!」と答えを出す。そしてその後に、答え合わせとして説明書きを読む、という順番に変えた。

普段は「説明書き」を先に読むが・・・
「これは伊万里焼で間違いない!」と思って説明書きを見ると、九谷焼だったりすると「何でだ!?」と悔しいが、逆に、見事に当たった時はとても嬉しい。
「オレもいっぱしのうつわソムリエになったな~」と一人で悦に入る。「当然これは、どう見ても常滑焼だよな~」と。
「景徳鎮」がクセ者?
伊万里、有田、唐津、九谷、常滑など、実際に自分で産地に行って直接見てきたものは何となく分かるようになった。だが、その中で「景徳鎮」(けいとくちん)がクセ者なのだ。
「これは有田だろ!」と思って説明書きを見ると「景徳鎮」。「今度こそ伊万里だろ!」と思ってもまた「景徳鎮」。有田、伊万里などの磁器系で悩んだ時は、だいたい「景徳鎮」にやられる。

それもそのはずで、「景徳鎮」は中国で日本よりずっと古くから磁器を作っていた世界的有名ブランド?だった。朝鮮出兵の時に日本に連れてこられた陶工たちが、景徳鎮を手本にして始まったのが日本の有田焼なので、景徳鎮は有田焼の遠いご先祖のようなものだから、似ていて当然なのだ。
ただ、絵付けがやや大らかで、時代も古いから劣化しているものが多いので、見分けるポイントはそのあたりか。
「私の引き出しにないものは『景徳鎮』だと思えば当たる」というのが今回私が得た教訓?だ。
以前に比べるとだいぶ分かるようにはなってきた。しかしそれでも、まだ当たる確率は五分五分ぐらいなので、「丁半バクチ」と変わらないレベルだが・・・

まだまだ丁半博打レベル・・・
帰りに古伊万里セットを衝動買い!?
2時間ほどですべての展示物をじっくり堪能し、サントリー美術館を出たその足で、東京ミッドタウンの同じフロアにある伝統工芸品店『THE COVER NIPPON』に寄った。ここは私好みのうつわ類がよく揃っている店だ。そこで早速、「織部の手鉢」を探してみたが、ない・・・
仕方なく、代わりに古伊万里の4点セットを買って帰った。全く織部手鉢とは関係ないものだけど、何か買わないと気持ちの収まりがつかなかったので・・・ 映画を見た後、パンフレットや関連グッズを衝動的に買ってしまうのと同じ心境か?

織部とは関係ない古伊万里を衝動的に・・・
ついに念願の織部手鉢を入手!
その後もどうしても「織部の手鉢」が欲しくて、ネットで色々と探してみた。だが、現在作っているものはほとんどないので、いわゆる骨董品の部類になる。なので、持っている人が譲ってくれないと手に入れることはできない。それをついにメルカリで見つけた!

なんと、メルカリで発見!
そもそもメルカリをやったことがないので、入会するところからゼロから始めて、お作法もリスクもよく分からないまま夢中で申込み、ついに念願の織部手鉢を手に入れた!

ついに念願の織部手鉢が!
箱付きのちゃんとしたもので、中古品だがほぼ未使用とのことで、実物の状態も綺麗だ。念願の織部手鉢をやっと手に入れたので、早速、豊洲の部屋で使ってみる。

早速、使ってみることに
本来、手鉢は茶事などで「お菓子」を入れるためのものなので、私もお菓子を入れて食卓の上に飾ってみた。和菓子がないから、洋菓子?の「カントリーマアム」だけど(笑)

和菓子じゃなくカントリーマアムだけど・・・
「実物を直接見る」ことが持つパワー
今回の織部手鉢にまつわる一連の体験で改めて感じたのは、「写真や動画だけ見ていても分からないパワーが実物にはある」ということだ。
視覚だけではない、物体が持つ何らかの「気」や「オーラ」のようなものに触れるからなのだろうか? 「モノ」ですらこれほどのオーラを放つのだから、これが生身の人間となると、そのパワーはさらに強烈になるだろう。
私が浜省兄貴のコンサートに行くたびに、思わず涙を流すほど感情を揺さぶられるのも、同じ空間でアニキの放つ本物のオーラと熱量を、全身の細胞で浴びているからに違いない。

アーティストのコアなファンになるのも、「推し活」にハマるのも、その原理は同じなのかもしれない。 テレビやネットの情報だけでなく、直接、本人を間近で見て、その肉声や体、あるいは「気」に触れたことで、理屈を超えて「魂」が反応したからなのではないか?

推し活にハマる気持ちが分かった?
ネットであらゆる情報が簡単に手に入る時代になり、写真や映像を見て分かったような気になっても、実際に実物を見たり、現地に直接行ってみたりして、ホンモノが放つオーラに触れてみないと分からないことがある。織部手鉢を通じて、あらためてそのことを実感した。
そして企業活動においても、それを実践し続けている会社がある。それが「世界のトヨタ」だ。

画面越しでは伝わらないことがある
「世界のトヨタ」が実践していること
「トヨタ生産方式」など独自の哲学と手法で世界一の自動車メーカーに登り詰めたトヨタ自動車。そのトヨタ社内において、令和の現在でも大切にされている言葉がある。それは、
「現地、現物」
本社の会議室でアタマの中だけで考えるのではなく、実際の現場に行き(現地)、現実を自分の目で確かめて(現物)、問題の本質をつかむという姿勢を徹底する、という思想だ。
この泥臭い「現場主義」を積み重ね続けたことで、トヨタは三河の片隅から世界のトップに立った。「実物」のもつパワーを全社員が吸収し、それを新たなクルマを生み出す力に変えていった結果なのだろう。
そういう意味で、これもホンモノにふれることの大切さ、スゴさを表している事例ではないか。
