プロローグ

総帥の独り言

サラリーマンとして30数年間駆け抜けてきた。

自分では「サラリーマンには決して染まるまい」「会社に人生を支配されてたまるか!」と抗いながら生きてきたつもりではある。

それでも5●歳を迎え、本社から関係会社に天下り、現役一線からは退いて「シニアリーグ」とも言える今の日常から振り返ると、現役時代はそれなりに無理をしながら、最短距離を最速で走り抜けることが、知らず知らずのうちに身に沁みついていたんだな、ということに改めて気づく。

歩くより自転車で、自転車より車で、直角に曲がる道は斜めに横切って最短距離で。どうすれば最も効率的か?無駄を省けるか?どうすれば人よりうまく凌げるか?無意識のうちにそんなことばかり考えながら生きてきたんだな、ということにようやく気が付いた。

今は逆に、クルマより自転車で、自転車より徒歩で、街の風景一つ一つを確かめながら自分の目と心に刻みつつ歩いていく。もう急ぐ必要など何もないんだから・・・

きれいなモミジが咲いていればそこでしばらく足を止め、銀杏並木ではどの角度が一番きれいか思案しながらスマホで撮る。今まで何度も通っていても見えなかった同じ風景が突然視界に入ってくるようになった。これまで人生でモミジや銀杏がこんなにキレイな木だということを知らなかった。春に桜を見てきれいだと感じるぐらいはあったが、秋から冬にかけて花や木々を愛でるなどという習慣すらなかった。

これからは庭に桜だけでなく、モミジも植えようと思う。銀杏も植えたいけど、落ち葉と匂いが大変そうだからなぁ…

子供のころは多分、毎日こんな気持ちで歩いていたんだろう。何にも縛られず、楽しいと思うこと、きれいだと思うもの、をたっぷり満喫しながら毎日生きていたんだろう。再びあの頃のような気持にこれからは戻れるか!?

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