ゴルフで培われる戦略的思考は「人生の戦略」にも通じる

ゴルフ

「ゴルフのコースマネジメントもできずに、部下のマネジメントができるか!」

ゴルフを始めて間もないころ、まだ健在だった親父とラウンドしている時に言われた言葉だ。ちょうど部長に昇格して多くの部下を抱えるようになり、「プレーヤー」から「マネージャー」へと仕事の中身が変わりつつある時期でもあった。

「プレーヤー」から「マネージャー」へ

よく言われるように、ゴルフは戦略性の高いスポーツである。一つ一つのホールの特徴を踏まえつつ、そこにその日の風や芝の状態などを加味して、どういう手順で攻略していくかを考えながら、一打ずつカップに近づいていく。

そのプロセスを「コースマネジメント」と呼び、単なる偶然ではなく、きちんと考え抜いた結果の必然として、スコアが決まる。そういう意味ではゴルフは、半分、頭でやるスポーツともいえる。

この難敵をどう攻略するか?

もちろん、思い描いた通りの球が打てる腕があるのが前提だが、どこまで上手くなっても100%確実というのはないので、成功確率を加味して考えなければならない。プロですら100%狙った通りに毎回打てるわけではないから、彼らは万一ミスした場合のリスクも考慮してどこに打つかを考える。

初心者のゴルフはパチンコと同じ?

ゴルフを始めたてのころは、コースマネジメントなど全く考えず、ただ狙った方向に、真っすぐ、少しでも遠くへ飛ばすことだけを考えて打っていた。そもそも真っすぐに飛ばないし、仮に方向は良くてもクリーンヒットできる確率は低いので飛距離はバラバラだ。「行先は球に聞いてくれ!」状態で、これではパチンコと変わらない。

コースマネジメントなど考えないゴルフ初心者の思考はいたってシンプルだ。「ピンまでの残り距離」と「クラブの番手ごとの自分の飛距離」の引き算をするだけだ。

例えば、自分の飛距離が、ドライバー:230ヤード(y)、スプーン(3番ウッド):200y、5番アイアン:180y、7番アイアン:150yだったとする。

一番難しいクラブ?スプーン(3W)

すると、ピンまで残り200yの地点では、迷わずスプーンで打つ。自分はスプーンで(うまくいけば)200y打てるので、今回も200yきれいに飛んでベタピンに付くかもしれない、という幻想に取りつかれて。

ところが実際には、スプーンなど素人がコースで打って成功するのは3回に1回あればいい方だ。少なくとも私の確率はそんなもんだ。なので成功確率は33%ということになる。

この成功確率33%を、スプーンの飛距離200yに掛けると、1回当たりの期待値(期待飛距離)は200y×33%なので66yということになる。

実際にコースでの実戦でスプーンで打つと、手前を叩いてダフッてチョロしたり、ボールの頭を叩いてゴロになったり、きれいに球に当たったと思ったら大きくスライスしてOBになったりで、これらのミスショットの飛距離も全部足して平均値を計算したら、66yぐらいになるのではないか。

それなら、150yを7割の確率で飛ばせる7番アイアンで打てば、期待値は150y×70%=105yなので、スプーンで「イチかバチか」に賭けるより、7番アイアンで刻む方が確率的には遥かに有利なのである。

ゴルフは確率のゲーム?

「平均」ではなく、実は「ベスト」であるのが問題

こうしたクラブ選択をしてしまうのは、練習場の、まっ平らな、滑りのいい人工マットの上で、何十球も打った中での、最もうまく飛んだ時の飛距離を「自分の飛距離」だと誤認してしまうことが原因だ。

冷静に考えれば、それは「平均的な」距離ではなく、「ベスト(最大)の」距離なのだが、一度打てた球はまたいつでも打てる、と考え、一度だけ出たベストの距離を自分の飛距離として頭にインプットしてしまうのだ。

「練習場シングル」は多いが、コースでは?

従って、「ベスト飛距離」ではなく、それに成功確率を掛けた「期待飛距離」で作戦を組み立てるのがコースマネジメントの大事な要素だ。

仕事でも確率を加味するのは同じ

仕事で例えると、部下のA君は、たまに大きな案件を取ってくるが、件数は少なくブレも大きいので、計算しづらい(=スプーン)。一方のB君は、地味で派手さはないがコツコツと地道に仕事をするので、小口案件を積み上げ、毎月、安定的に成績を上げている(=7番アイアン)。

支店のノルマ達成がかかっている年度末に、支店長としてそれぞれの部下に何を期待して、どう使うか? 部下の特性と現在の局面を踏まえて、各々の最適な使い方を考える。それが部下マネジメントだろう。

ほかにも、新規事業を始める際に、ろくに検証もせず「やってみなければ分からないだろ!」と勢いだけで突っ走るのは、「経営」ではなくただの「バクチ」である。勝算もなく、ただ力任せに池越えでパーオンを狙いにいくのと同じだ。

他人(株主)の金だからそんなノンキなことを言うが、自分の手ガネで事業を起こすのであれば、あらゆるシミュレーションをしてリスクとリターンを全て洗い出し、成功するかどうかを緻密に計算するはずだ。

ゴルフのプレースタイルには「生きざま」が出る

「哲学」というほど大袈裟ではなくとも、ゴルフのプレースタイルには、その人の「生きざま」が反映されている。

普段、仕事ではメチャクチャ慎重で、「石橋をたたいて壊してしまう」ようなキャラの人が、ゴルフになると急に大胆な性格になって、「いっちょ、池越えでパーオンを狙ってやるか!」などと言い出すことはマズない。そういうバクチを打つ人は、普段から一発逆転狙いの豪胆な性格の人だ。

コースマネジメントの訓練が人生戦略にも活きる

逆に、ゴルフでのコースマネジメントを通じて培われた戦略的思考プロセスが、生き方にフィードバックされることもあるだろう。

「今の社内での自分の状況はアゲインストの風(逆風)が吹いてるから、この案件は無理せず、手堅く刻んでいこう」

「今はフォローの風だから、ここは思い切って大口案件を多少強引にでも進めてみよう」

など、ゴルフと同じように、いやゴルフ以上に、人生においても「コースマネジメント」の考え方は大切だ。

仕事はもちろん、子供の教育、資産運用、健康維持などなど、人生のあらゆる場面で、局面と確率を考慮しながら、攻めるところは果敢に攻め、守るべきところではキッチリ守る、という緩急をつけた戦略的なマネジメントが必要になる。

運任せの「パチンコ人生」から脱却し、「生き残るべきして生き残る」戦略的思考を

何も考えず、何十年間も運を天に任せて生きるだけの「パチンコ人生」では、いずれどこかで池ポチャをして行き詰る。仮に生き残れたとしたら、それはただのラッキーで真の実力ではない。

「行先は球に聞いてくれ」のパチンコ人生?

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