引退後に備え「島」に籠って「1週間釣りだけ生活」を実験してみた【後編】

釣り

前回のあらすじはこちら↓

引退後に備え「島」に籠って「1週間釣りだけ生活」を実験してみた【前編】
「ホンマにこんなにたくさんアオイソメ買わはるの?」 釣具屋のおばちゃんが怪訝そうな顔で尋ねてくる。ネイティブの関西弁は、やはり心が和む。 「今日から1週間、この島で『一人釣り合宿』を張るんで、ぎょうさんいるんですわ」と、私も関西弁で応じる。...

5日目。暴風雨の中で思う

今日は午後から暴風雨になる予報なので、実質、半日勝負だ。

朝マヅメの1投目から出会いがしらに大きめの「ガシラ」(関東名はカサゴ)が掛かった。 しかしその後は、低気圧が近づいているせいか、魚の反応が良くない。昨日までフィーバーしていた同じ海とは思えない。

出会いがしらに釣れた「ガシラ」

昼前には雨がポツポツ降り始め、風も段々と強くなってきて、アタリも分かりづらい。悪天候予報なのでもともと少なかった釣り人たちも、みな早々に引き上げていく。

しかし私は、雨合羽をかぶって雨風に打たれながら、誰もいなくなった海で、ひとり竿を振り続ける。なぜなら、私には帰る場所がないから。

目の前にある安宿の狭い部屋に、こんな真昼間に戻っても何もすることがない。もともと寝るためだけの役割しか期待してないので、昼間にそこで一人でボーっとしてるぐらいなら、雨の中で釣りをしてた方がマシだ。

それでもフト冷静になると、「オレはなんでこんな所で、こんな苦行をしてるんだろ?」という疑問が頭をもたげてくる。 「いやいや、アジを釣るために決まってる!」 そう自分にいい聞かせながら昼過ぎまで粘ったが、全くアタリすらなくなり、ついに心が折れてやむなく部屋に戻った。

結局、今日の釣果は、朝イチに掛かったガシラ1匹のみ! まさに「出会いガシラ」の一発だけだ。

しぶしぶ宿に戻ったが、やはり部屋ではすることがないので、連日の酷使で潮が噛んできたロッドやリールを部屋の狭い風呂場で洗った。

狭い風呂場で釣り具を洗う

夕方、少し足を延ばして「魚民」まで晩飯を食べに行った。毎晩、スーパーの冷えた弁当を食べ続けていると、「魚民」がとてつもなく有難く、贅沢に感じる。普段、東京ではまず行かないけど。

魚民での食事がとても贅沢に感じる

そして睡眠不足で疲れた身体を休めるのにちょうどいい機会なので、明日からの残りの闘いに備えて、酒をあおって早々に眠りについた。

6日目。嵐のあとで

暴風雨のおかげで昨夜は8時間ほど眠れた。それでも蓄積してきた疲労は抜け切らず、まだダルくて眠い。連日、竿をシャクリ過ぎて右手首も痛い。

「今日は何日だっけ?」 毎日同じように4時に起きて、一日中ずっと海にいて、夜中に部屋に戻ってスーパーの弁当を食べて寝る、という生活を繰り返しているので、すでに日付の感覚もなくなってきている。

強風で海が荒れている

昨夜の雨は通り過ぎていたが、強風は残っている。 「これじゃ今日も釣りにならんな・・・」と思いながら、それでも日の出から海に向かう。なにせ他にすることがないので。

暴風雨の影響で水が濁っているせいか、魚の反応が全く感じられない。エサ取りのフグやスズメダイすらほとんど食ってこない。

フグすらなかなか遊んでくれない

あまりに暇なので、これまでに釣った魚にあだ名を付けて遊ぶ。フグは「フギー」、チャリコ(鯛の幼魚)は「チャーリー」、ガシラ(カサゴ)は「ガッシー」、ベラは「ベリー」、といったぐあいに。

すると久しぶりにアタリがきてチャリコが掛かった。「またおまえか、チャーリー」

正式名「チャリコ」(鯛の幼魚)

最終日。最後に衝撃の結末が!? 竿と一緒に折れたのは?

朝、4時に目覚ましが鳴っても、体がベッドに張り付いてはがれない。疲労がピークを迎えている。洗面所の鏡に映った日焼けした顔に疲労が滲んでいる。

「豊洲の快適な部屋に帰りたい・・・」。だんだん釣りが嫌いになってくる。

それでも行かねばならない。今日は午後の新幹線で東京に戻るので、日の出から10時までしか釣りができないのだ。

きのうまでとは打って変わって穏やかな海。晴れると朝の6時でも既に日差しがきつい。暴風雨の次は灼熱だ。既に日焼けしている顔と手首がヒリヒリする。半袖にした腕がジリジリ焼けてじっとしてられない。天候の変化が極端すぎるし、暑くても寒くても、人間はないものねだりをするものだ。

そういえばこの1週間、人間と会話したのは、釣具屋のおばちゃんと、スーパーのレジで「袋はどうしますか?」「大きい方でお願いします」だけだったかな? あとはひたすらサカナと、自分自身と対話し続けた日々だ。

ずっと誰とも喋らないと独り言が増え、思ったことが全部口をついて出てくるようになり、常に一人でブツブツ言ってるヤバいオッサンと化してる。

逆に、自然に対する感度が研ぎ澄まされるのか、潮の香りや波の表情の微妙な変化を感じるようになる。

いろんな表情を見せる海

「そろそろ、洲本ともお別れの時間だな・・・」

そう呟いていた時、急に竿が大きくしなった。最後に大物がきたか!? 引きの強さからアジでなさそうで、「チャーリー」か「ベリー」っぽい。なかなか寄せられず、しばらく綱引きをしていると、初日と同じように根に入り込まれた。悪夢の再現か?

今日は魚が諦めて出て来るのを待っている時間もないので、竿をブンブン振り回して、力ずくで根から引きずり出そうと試みる。その時「バキッ!」という音がしてフイに糸の力が消えた。「またラインブレイクか?」と思ったら、なんと、竿が折れているではないか・・・

在りし日の勇姿

1週間にわたる激闘の疲弊は、私だけでなく相棒にも当然かかっていたのだ。そして最後に力尽きた「名誉の戦死」だ。変わり果てた戦友の姿を見て私の心も折れ、そこで文字通り「納竿」した。

変わり果てた戦友の姿

こうして最後は、まさかのアクシデントで洲本での1週間の釣り合宿は幕を閉じた。

無事、豊洲に生還す!

激闘を終えた帰りの新幹線では、7日間の疲労が一気に出てすぐに眠りに落ちた。そして2時間半、ただ泥のように眠って、無事、豊洲に生還した。

無事、東京に到着

7日振りに豊洲のタワマンに戻り、都会の夜景を見下ろしながら、マッサージチェアでガチガチになった身体を入念にほぐした。そして、快適な部屋でヘネシーを飲みながら、島での成果を振り返った。

やはり自宅は快適だ

『老人と海【洲本版】』?の結果発表!

こうして兵庫県淡路島にある洲本港でのゴールデンウィークを利用した釣り合宿は終了した。『老人と海』の洲本版?ともいえる7日間にわたる魚との死闘の結果は以下の通りだ。

ガッシー:41匹、チャーリー:5匹、ベリー:4匹、キス:1匹、グレ:1匹、コブダイ:1匹、イトヒキハゼ:1匹、スズメダイ:多数、フグ:無数・・・

そして、お目当てのアジの結果は、7日間でなんと、

2匹だけ!

合宿にかかった費用は、交通費が新幹線と高速バスの往復で3.5万円。宿代が5泊で5万円、宅急便代1万円(高っ!)、エサ代0.5万円で合計約10万円。(食事・酒代等は別)。

10万円÷2匹=5万円/匹なので、さすが洲本のアジは1匹5万円もする高級魚だ(笑)

ん!?  豊洲のスーパーで見たら、アジが1匹250円で売ってたぞ・・・

豊洲にたくさんのアジが・・・

果たして「実験」は成功だったのか?

1週間、1人きりで、ほとんど誰とも話すことなく、ただひたすら、潮と風と太陽と、そして魚という自然と闘い続ける、という壮大な?実験が終了した。

朝起きる時間も、飯を食べる時間も、寝る時間も、そして釣りをする時間も、全て自分一人で決めて、そして実行する。誰かに合わせたり遠慮することなく、全て自分の思うままに。潮と風と太陽と、そして己の体力と相談しながら。

だからこの合宿は、一人きりでやらねばならなかったのだ。他人と一緒だと、たとえどれだけ親しい家族や親友であっても、人の行動ペースに合わせるというノイズが入り込む。それをすべてシャットアウトして、全神経を釣りに集中して過ごす必要があったから。

やはり体力的には還暦の身にはかなりキツかったが、それでも最後まで何とかミッションをコンプリートすることができた。

身体のエネルギーは底をつきかけたが、「島生活」でアタマも空っぽになったおかげで、東京生活で脳みそに溜まった澱(おり)も全部吐き出せた。

次は、本物の離島で、釣り天国と言われる対馬などで、また「合宿」をやってみたいものだ。

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