京王井の頭線「駒場東大前駅」近くに、看板も出さず、住所も非公開の隠れた名店があるということで、うつわソムリエ仲間と休日の午後に行ってきた。

駒場東大前駅から10分ほどのところに・・・
店の名は「りた」という。「他人を利する」という意味の「利他」からきているそうだ。客を喜ばせるために、秘蔵のうつわと自分の技や知識を惜しげもなく提供する、という大将の心意気が込められているように感じる。

大将の伊藤さんは30代前半ぐらいでまだお若い感じ。しかし、驚くほどのうつわの知識とこだわりを持つ趣味人だ。
店の前には本当に何の目印もないので、最初は前を通り過ぎてしまった。店に入ると、いきなりアンティークな棚にうつわがずらり! それだけでテンションが上がる。

入口の棚からうつわがギッシリ!
店内はカウンターだけで8名も座れば満席状態。大将のほかに若いスタッフさんが2~3名カウンターの中できびきびと役割をこなしている。

店内はカウンター席のみ?
大将は、調理をしながら、素材や料理の説明をし、さらに一品ごとに出て来る珍しいうつわの解説まで一人でこなす。出される料理ももちろん旨いのだが、それ以上に驚いたのは、うつわに対するマニアックなまでの知識とこだわりだ。

本日の豪華食材
われわれうつわソムリエ連中は、料理もさることながら、それが盛られている器への興味が強いので、料理が出てくるたびに「これはどこの誰の作品ですか?」などと矢継ぎ早に質問が飛ぶ。

見るからに高そうな輪島塗のお椀も
それを大将は「これは○○の△△窯で特別に焼いてもらったもの」とか「それは初期伊万里で今日出しているうつわの中で一番高い」とか全て記憶していて、すらすらと答える。うつわに対して相当な興味がないとあれだけの知識を身に付けることはできないだろう、と感心しきり。

「馬の目皿」がこれだけ揃うとは!?
珍しい「馬の目皿」(うまのめざら)がいくつもあって、全員に違う「馬の目皿」で毛ガニのクリームコロッケが出てきた。大将が時間を掛けて一枚一枚蒐集してきたそうだ。

「馬の目皿」と「カニクリームコロッケ」の図
ちなみに、「馬の目皿」とは、江戸時代後期から明治時代に瀬戸で焼かれていたもので、鉄絵で描かれた渦巻き模様が特徴。この渦巻き模様が馬の目に似ていることから「馬の目皿」と呼ばれるようになったそうだ。
桃山唐津があった!?
さらに、桃山時代の古唐津を見せてもらった。歴代の所有者まで分かっている由緒正しいうつわだそうで、値段は大将いわく「聞いたら引くような金額」だそうだ。さすがにこれは料理では出てこず、皆で鑑賞だけさせてもらった。うちのタワマンにも、こんな「観賞用のうつわ」が一つぐらい欲しいものだ・・・

超貴重・高価な桃山唐津が!
次々に出て来る珍しいうつわに夢中で、料理の詳細がおろそかになったが、料理も一品一品こだわりが感じられる美味であったのは間違いない。
そして、料理の締めは、からすみ御飯、漬け丼、薬膳スープ、牛すじカレー、かきたまうどん、フルーツの炊き合わせ、から好きなものを選べる。驚いたことに、どれを選ぶか迷うなら全部食べてもいいとのことなので、皆で全種類を制覇した(いずれも一口サイズです)。

締めにはカレーも出てくる
デザートには大きなイチゴが入った「いちご大福」が出てきて、皆さんおなか一杯に。

デザートの巨大いちご大福
さらに、お土産に炊き込みご飯のお持ち帰りまで! しかもその容器まで、ありきたりの安物ではなく、こだわりが感じられるしっかりとした「うつわ」であった、

お土産の炊き込みご飯
料理とうつわと酒、さらに大将をはじめとしたスタッフのみなさんの楽しい雰囲気を3時間ほど堪能した。うつわ談義に花が咲き、ついつい皆でワインや日本酒をポンポン開けたので、締めてお一人様3万円也。
「ランチ」と言っても、中身はしっかり「ディナー」と同じ内容で、普段はランチタイムには営業しないところを、うつわソムリエ向けに特別に昼間にやって頂いた、ということなので、ディナーと考えれば3万円も高くはない!?
余談・・・
都内にはいわゆる「隠れた名店」と呼ばれる店はたくさんあるのだろう。「りた」もあまたあるその中の一つなのかもしれない。
しかし、私が「りた」はそれらとは少し違うと感じたのは、大将の伊藤さんの生きざま?が醸し出すこだわりが、スタッフを含めた店全体の細部にまで浸透しているところだ。
もし伊藤さんが私と同じようなアラ還で、人生いろいろあったうえで、こだわりのあの店をあのスタイルでやっていれば、さして驚かない。人生の最後ぐらい、好きなことを好きなようにやろう、という今の私と同じような境地になるのは分かる。
それが、失礼ながらあの若さで、自分のやりたいことに振り切って、それを実現しているところがスゴイのだ。どういう経歴なのか詳しくは知らないが、非常に人間として興味を引かれる人物だ。
帰り際に玄関先で見送ってもらった時の立ち話で、「やりたい時だけやってるので、宣伝とかも全然してないんです」と言っていた。それで成り立っているのだからスゴイし、羨ましい限りである。
自分のやりたいことにトコトン拘ってやりたいようにやる。自分一人で料理を作り、うつわを選び、その講釈もする、というバリバリの「プレーヤー」でありながら、スタッフを上手に育て、回す、「マネージャー」としての腕前もなかなかのものとお見受けした。
体育会系の厳しくも明るいノリでスタッフに接し、全員が自分の役割をきちんとこなしているか、ちゃんと目を光らせている。昨今の軟弱なサラリーマン社会では見かけなくなった光景だが、料理人業界特有の?師弟関係のような信頼関係がベースにはあるのだろうか?
女性スタッフのうつわの知識もかなりのものだったので「すごいですね!?」と私が褒めると、大将のうつわ話をいつも横で聞いてるだけで、勝手にドンドン知識が身に付いたそうで、「スピードラーニング(懐かしい!)のようなものです」と笑っていた。
彼女はそう言っていたが、実は実地研修としてスタッフを唐津へ大将が自腹で連れて行ったり、親分肌なところがあり、ちゃんと教育もしているのだ。
今回、駒場でまことに興味深い本物の「うつわソムリエ」に出会った。
そしてまた一つ、「うつわのわ」が拡がった。

