むかし「暴走族」、いま「ネット民」。闇の中でしか生きれない者たち

総帥の独り言

まだ日本社会に活気があった昭和時代、夜になると、爆音を響かせ、集団で単車やシャコタンを蛇行運転して道路を占拠している若者たちがいた。

当時は「暴走族」と呼ばれ、その後、「ルーレット族」や「ローリング族」などと名称や態様を変えながら存続してきた。そして今は、生態そのものをガラリと変え、「ネット民」と呼ばれる種族に変貌した??

かつてのように「単車シャコタン」ではなく、「スマホパソコン」に武器を変え、

爆音」を上げるのではなく「炎上」させることで、

そして「集団」ではなく「一人ぼっち」で。

こうしたいくつかの違いはあるが、一方で、両者には本質的な大きな共通点がある。それは「絶対に、白昼堂々、世間には出てこない」という点だ。

暴走族は、暗闇の中でマスクやヘルメットで顔を隠し、バイクのナンバープレートを上に折り曲げて、車両が特定されないようにしていた。

昼間、工事現場で親方に怒鳴られながら安月給で泥にまみれ、反抗でもしようものなら当時は当たり前のようにブン殴られた。決して這い上がれない社会の底辺で這いつくばりながら、復讐心をくすぶらせ続けて昼間を生きていた。

そしてそのウサを晴らすべく、夜になると、昼間、自分たちを虐げた「社会」に対し報復するために、平穏と安眠を破壊すべく爆音をまき散らす。決して自分の正体を明かすことなく。

今の「ネット民」も、構図はまったく同じだろう。

ネット上のバーチャル社会での匿名だけを使って、本名も顔も晒すことなく、闇の中から汚く鋭利な言葉を他人に突きつける。

昼間の社会では、発言権も与えられず、目立たず、虐げられている者たちが、匿名の隠れ蓑の中から復讐の「言葉」を発し続ける。「爆音」の代わりに。

昼間は社会から承認されることのない自分の存在を確認するために。

顔と名前をさらした昼間のリアル世界では、一言も言い返せない内気で気弱な「ヒツジ」なのに、夜のバーチャル世界になると舌鋒鋭く相手の急所を容赦なく攻撃してくる「狼」に変貌する。リアルでバトれるだけの能力も精神力もないのに。

しかし、匿名で正体を隠しているから安全だと思っていても、いつ正体がバレるかもしれないというのも暴走族と共通している。

暴走族は、警察が来て一斉検挙で一網打尽にされ、身元がバレるだけでなく、不正改造しているバイクやクルマも押収される。当然、免許は取り消しだ。

現在のSNSの匿名性も実は極めて脆弱だ。例えば、AIでビッグデータを解析するため、企業が保有する膨大なデータを研究機関等に提供することがある。その際、当然、個人情報の部分は慎重に抜き取って提供するので、そのデータ単独では個人を特定することはできない。ところが、同じような別のビッグデータをいくつか組み合わせると個人が特定できてしまう、というような事件も実際に起きている。その結果、その人がどんなモノを買っているか、どこに行き、どんな映画を見て、それに対してどんなコメントを書いているか、等々が全て赤裸々に晒されることになったのだ。

さらに資本の論理で言えば、民間営利企業が運営しているサイトの匿名性など、そもそもその企業が買収されてしまえば丸裸だ。LINEヤフーの個人情報流出事件が、最終的には経営権取得の問題に発展したのは記憶に新しい。

他にも例えば、大手ブログサイト「note」を運営している「note株式会社」は、東証グロース市場に上場している公開企業だ。時価総額はわずか80億円程度(時価@520円、発行済み株数:1536万株で算出)。従って、私が運用していた数千億円規模のファンドなどであれば、資金の数%をnote株に振り向ければあっという間に買収できてしまう。そんな巨大ファンドでなくとも、証券市場に株を公開している以上、いつでも誰でも買えてしまうのだ。そして買収されると、その所有者によって、気に入らない記事を書いているクリエーター(noteではブロガーのことをこう呼ぶらしい)の正体などいくらでも暴くことができる。権力や金を持つ者がその気になれば、個人の小さな人権などひとたまりもなく吹っ飛び、最後は、警棒で追い回され逃げ惑う暴走族のようになる。

匿名性を嵩にきて、本当はヒツジのくせに狼のようにイキがっていると、いざ、自分の正体が暴かれたとき、本来のヒツジの脆弱な精神力ではひとたまりもなく潰れていくだろう。

だから、本名と顔を晒して言えないことは、たとえどこであっても言わないことだ。

ネット上では「総帥」の名のもとに、吠えている自分への自戒を込めて。

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