学園紛争時代とバブル時代とが交錯する不思議な感覚の『遠くへ(1973・春・20才)』

BAR HAMA-SHOW

『MONEY』に続き、ここ『BAR HAMA-SHOW』で次に取り上げる曲は、『遠くへ(1973・春・20才)』だ。

この曲は、1986年発売の『J.BOY』に収録された曲だが、実際に作られたのはもっと昔の70年代のようだ。

8分を超える長い曲なので歌詞の全貌は最後に載せてるので、改めて確認したい方はそちらをどうぞ。

恋愛ソング風の学生運動ソング

一見、普通の学生の恋愛ソングのような歌詞だが、実は、学園紛争が華やかなりし頃の1970年前後の大学の様子、そして時代の大きな流れに翻弄されながらも懸命に生きている男女の姿が描かれていることが分かる。もしかすると、浜省兄貴の実体験に基づいているのかもしれない。

ただの恋愛ソングではなく、学生運動の話だと分かるのがこの一節である。

『紺と銀色の盾の前で 空を仰いで祈り続けた 「神よ僕らに力を貸して でなけりゃ今にも倒れてしまいそう」』

「紺と銀色の盾」とは、「機動隊」の制服と彼らが手に持つ防護盾のことである。紺色の制服を着て、銀色のジュラルミン製の盾を手にした機動隊が、整然と並んでバリケードを作り、学生たちを阻む姿を歌っている。

そしてこの一節の前に出て来る

『赤いヘルメットの奥の瞳に 見透かされたようで何とか照れ笑い』

というフレーズもヒントになっている。

この「赤いヘルメット」の解釈が人によって諸説あった。ある友人は、バブル時代の学生に人気の「原チャリ」のヘルメットだと思っていた。実際、私の学生時代には、赤いヘルメットをかぶって原チャリに乗っている学生はたくさんいた。

また別の友人は、浜省が広島出身であることを根拠に、「広島カープの赤ヘル」だと思っていた。今で言う「カープ女子」といったところか?

平和な時代の?赤いヘルメット

しかし、後から出て来る先程の歌詞をちゃんと聞けば、この「赤いヘルメット」は、学園紛争時代に赤をシンボルカラーとしていた「共産同(共産主義者同盟、ブント)」が被っていたヘルメットであると思われる。

ちなみに「白」のヘルメットは「中核派」や「革マル派」、黒は「ノンセクトラジカル」が被っていたそうで、当時はヘルメットの色で自分達の主義や思想を表現していたようだ。

ホントの「赤いヘルメット」

私の学生時代にも、たまにキャンパス内で、赤ヘルと白ヘルが内ゲバ?でケンカしているのを見かけた。赤と白で信条がどう違うのか、ノンポリ学生であった私には分からなかったが、ともに強大な国家権力と闘う身なら、主義主張の小さな違いなど捨てて、なんで一緒に闘わないんだろう?と不思議に思ったものだ。

この歌で描かれている世界とは?

この歌で描かれている世界についての私なりの解釈はこうだ。

「楽しいキャンパスライフを夢見て大学に入学したら、学生運動をしている彼女と出会い、そのうち付き合い始める。その影響で、ノンポリだった自分もいつしか彼女と一緒に学生運動に加わるようになる。そこで、強大な国家権力の前に打ちひしがれながらも、自分たちの進むべき道がある、と信じて二人で支えあう・・・」

(違う解釈の方がいれば、どうぞご意見を)

70年代に浜省兄貴が神奈川大学で実際に目にした光景をもとに作られ歌だと思うが、バブル世代で学生運動など知らない私が、なぜこの歌に強く惹かれるのか?それは京大の特殊な環境ゆえかもしれない。

世の中では学園紛争などとっくに過去のものとなり、バブル真っ盛りの80年代後半でも、私は大学で同じような光景を目にしていたのだ。京大では、その当時でも学園紛争の名残りがあって、日常的に学生活動家たちが活躍していたのだ。以前にも少し書いたが、活動家たちがヘルメットにマスク姿で授業に乱入し、占拠するというのが日常茶飯事だった。

横須賀と呉で「軍港巡り船」に乗ってきた。そして終戦記念日にて思う・・・
今日、8月15日は終戦記念日で、今年は80周年にあたるそうだ。日本にとって最後の戦争である太平洋戦争が終わって80年が経つということは、戦争を知っている人が日本にはほとんどいなくなった、ということだ。実際、我々が普段生活をしていて、戦争のこ...

だから、私にとっては、この歌で描かれている世界は、歴史としてではなく、実体験として感じられるのだ。自分自身が参加したわけではないが、クラスメートの活動家が機動隊とバトルしているのを間近で見ていたので。

なのでこの歌は、自分は知らない学園紛争時代と、自分自身のバブル期の学生時代が、なぜかオーバーラップする、不思議な感覚の曲なのだ。

そして今でもカラオケに行くと、最後の「いつまでたっても石ころじゃないさ」というフレーズに特に力を込めて熱唱している。

 

『遠くへ(1973・春・20才)』

やっと試験に受かったと

喜び勇んで歩く並木道

肩にセーターと おろしたてのバスケットシューズ

長髪(かみ)をひるがえし駆け上がる校舎

 

初めてあの娘に出会った朝は

僕は20才で まだキャンパスも春

赤いヘルメットの奥の瞳に

見透かされたようで 何とか照れ笑い

 

遠くへ

遠くへと願った日々

真直ぐに見ておくれ

僕は泣いてる 君のために

 

ポケットの中 わずかなバイト料

最終電車を待つプラットフォームから

あの娘に電話 「やあ僕さ 元気かい?」

「今から出てこないか どこかで飲もうぜ」

 

駅前通りの馴染みの店で

グラスを重ねて そして初めての夜

その日 あの娘の恋が終わったとは

知らない僕もひとり寂しかったし

 

遠くへ

遠くへと願った日々

真直ぐに見ておくれ

僕は泣いてる 君のために

 

紺と銀色の盾の前で

空を仰いで祈り続けた

「神よ 僕らに力を貸して

でなけりゃ今にも倒れてしまいそう」

 

振り向くと遠くに あの娘の眼差し

笑っているのか 泣き出しそうなのか

違う違う こんな風に僕は

打ちのめされるために 生きてきた訳じゃない

 

遠くへ

遠くへと願った日々

真直ぐに見ておくれ

僕は泣いてる 君のために

 

「星がひとつ空から降りてきて

あなたの道を照らすのよ」と

話してくれた きっとそうだね

いつまでたっても石ころじゃないさ

 

遠くへ

遠くへと願った日々

真直ぐに見ておくれ

僕は泣いてる 君のために

(作詞・作曲 浜田省吾)

 

(ここまで読まれた方は、左下の『最後まで読んでやったよ!』ボタンをぜひ(^^))

0
0