「アジング」というのは、極限まで細い糸と高感度のロッドを使って、繊細な小魚のあたりを拾って掛ける、という実にデリケートな釣りである。竿の感度が高いので小さな魚の引きでも増幅されて大物を釣っている気分になれる。20cmを超えようものなら竿はひん曲がる。
たかがアジ、されどアジを相手に、一人であれこれ思案し、ワームの色を変えたり、ヘッドの重さを変えたり、いろいろと試行錯誤を繰り返しながら格闘している「アジンガー」。
そんな孤高の闘いをしているアジンガーの隣に、突然、子連れのファミリーがやってくる。堤防でのファミリー釣りと言えば定番の「サビキ釣り」が始まる。カゴに撒き餌を詰めて揺らし、それに寄ってきた魚を擬餌針に掛ける、という例のアレである。
そして釣りを始めて早々に子供から恐怖の一言が発せられる。
「パパ~、アジが釣れたよ~!」
今まで散々オレが悪戦苦闘しても釣れなかった場所で、来たばかりの年端もいかない子供がいきなりアジを・・・
(どうせ小さい豆アジだろう・・・)とそちらを見ないようにして、自分を落ち着かせる。
すると父親からトドメの一言が。
「スゴイね~、20cmぐらいかな?」
完敗である。
オレはそれを釣るために早朝からこの場所で、一人で奮闘してきたのだ。それを・・・
しかし、ここは大人の対応だ。ようやくファミリーの方を向いて「ボク、すごいね~」「釣り、上手だね~」と精いっぱいの余裕を見せる。
「サビキ釣りが来たらアジングでは釣れない」というのはアジンガーにとっては定説かもしれない。魚にしてみれば、本物のエサがたくさんバラ撒かれてるのに、わざわざビニールの虫を食う必要などないのだから。
もともと「釣れても釣れなくてもいい、魚と遊んでるだけで充分」と思っていても、イザ周りで釣れて自分だけ釣れないとやはり心がザワつく。
周囲の状況に左右されずどこまで孤高を保てるか、まだまだ修行の道のりは長い・・・